期末決算の対応その①。年度最終日前にしておくべき決算前整理、費用計上の早期化とは
(2020.9.28に執筆しました)
日本のタイムカレンダーは、1月始まり、ないし4月始まりです。
日本の一般的な会社も同様に4月スタート、3月エンドが多くなっています。体感的に分かりやすいのではと思います。
なので、2月になると、期末(年度末)をそろそろ意識し始め、3月になるといよいよ待ったなし。
何かやり残していることがあったとしても、翌年度でいいやと手仕舞い、いったん忘れることにする。
あと1日、あと1日と朝起きるたびにカウントダウンをしながら、今月中にやってしまわないといけないことを軽めのものから順番に潰していく。
3月31日になると、いよいよ最終営業日。とにかく、目の前のものを終わらせることに集中し、ひとまずほっとする。
翌4月1日、新年度の始まりの清々しさを感じつつも、新年度と旧年度をダブルタスクで進めなければいけない経理担当者にとって、最も忙しい2か月が幕を開けます。
経営者も同様で、新年度の事業計画を素案から叩き台に昇華させつつ、すでに新しい年度は始まっており、頭の切り替えに悩ませながら、前年度の整理、片付けに取り掛かることとなるでしょう。
頭の脳は、なかなか新しいコトと古いコトを、その瞬間で軽重を切り替えつつ向き合える仕様にはなっていないものですから、ケアするには、しっかりと事前準備をしておくことに他なりません。
決算前整理として行うべきこと
本記事では、決算前整理の重要性、実際にするべきこと、割り切って諦めるなら何になるかを取り扱います。
期末決算は2か月前から始まる
決算まであと2か月、正直そこまで焦りはありませんね。
むしろ、今年度の業績の着地がやや見えてきて、売上高はここまで引き上げたい、経費をこれぐらい削減(追加計上)して、最終的な利益はこれぐらいにしたい等の考えを巡らせていることでしょう。
2か月前ぐらいだとビジネスサイドからの要望ありきで、残りの2か月で実現できること、できないことのジャッジをしているのが大半かと思います。経理サイドはその方針に従うのみです。
経理サイドの観点で2か月前からしておくことは
とはいうものの、経理サイドとしてもするべきことは山ほどあります。
まずは、毎月の月次決算をきっちり終わらせておくこと。これは大前提。
そのうえで、月次レベルでペンディングになっていたこと、例えば、新しい取り組みに伴う会計処理の検討、取引量が増して重要性が増してきたことで簡便的な処理から原則通りの処理に改めるにはどうすればよいか、仮の処理をしたまま放置になっていたが年度末が近づいてきたので本腰を入れる、等でしょうか。
まだ余裕がある気もするけど、そろそろ未済タスクに着手しないといけない気分です。
それができるのは、毎日、毎週のルーチン、毎月の月次決算をきっちり進めてきたからこそで、手付かずの案件に対処する時間と余裕が確保されます。
いよいよ期末決算1か月前
なんだかんだ1か月を過ごしてしまったので、あせり始めるのが期末決算1か月前。
周りからのプレッシャーも厳しくなっている気もします。みんな忙しそうです。
①在庫(棚卸資産)の実地棚卸
小売業、卸売業、アパレル業など、在庫の点数、返品割合の高さ、移動の大きい業種だと期末決算2か月前を基準日にするところもありますが、まずは、期末決算1か月前を基準日として在庫の実地棚卸をするべきか検討します。
スルー取引による商品出荷となる会社、ITサービス系のモノを持たない会社、人的資源で事業を行う会社(コンサル等)であれば、期末日当日を基準日にしても良さそうですが、以下に記載した特徴があるのであれば、1か月前から取り組むことを要検討です。
・在庫点数が多い
・保管拠点数が多い
・仕掛品、半製品の工数が多い
・外部倉庫を使っており、報告書の入手が必要(通信販売業等)
・在庫の評価が重要(季節物のアパレル業等)
・経理リソースが少ない
投入可能なリソース、情報の入手スピード、在庫評価の損益への織り込みの占める重要性によって、どれくらい時間をかけるべきか決まってきます。また、
・期末決算の負荷の分散
・3月の損益の全体利益に占める割合が大きい
・最終月の仕入実施の検討(期末在庫の適正化)
・翌年度の事業計画への影響の早期把握
などなど。早期に対応することで時間とリソースを確保する利点は大きいと思います。
②債権(売掛金)の取引先残高
売掛金の回収リスト、滞留リスト、年齢表を作成して、取引先の与信レベルを定点観測すること。
同時に、貸し倒れのリスクを勘案しながら、貸倒引当金の計上、区分への分類を把握すること。これも早めにしておきたいですね。
実際に貸し倒れが発生すると、ちょこちょこ貯めてきた利益が一撃で吹き飛びかねません。
それこそ、多少の黒字予定であったが、1件の貸し倒れで年度を通じて赤字になるその影響と、必要な後処理は莫大なものになります。
したがって、売掛金の入金、回収状況を確認するのみならず、債権の評価までを決算前準備として行うことは、当期の事業管理の確実性を早期より担保、対応する余裕を持てるということに他なりません。
③固定資産の評価
固定資産の減価償却がメインとなりますが、税務上(会計上)計上できる償却額、許容される償却額が決まっており、原価償却計算書をまとめる際に計画的に行います。
決算前準備として考えられるのは、評価、減損、除却といった対応です。
税務の観点からは、固定資産の廃棄、除却が、決算前に使えるトピックスとなります。
Cashの流出を伴わない損金計上が、最も税務対策として効果の高い施策です。
税金の支払を少なくするために余分な経費を計上してCashを流出させるのは本末転倒であり、会社の持続性を傾けます。
その点、不要資産(土地、固定資産、在庫、不採算事業etc.)の売却、除却であれば、Cashの流出を伴わず、費用化することができるので、是非考えていただければと思います。
④借入金、キャッシュフロー
借入金の返済予定表と残高証明書の取得、支払利息の計上など。
合わせて、最終月、翌事業年度(少なくとも上期まで)のキャッシュフローと、事業投資の計画を見直しておくのは、期末決算対応というよりは、事業計画に資するためです。
会社Cashの早期把握、早期対処、早期成果測定が可能となりますので、同時にやりたい。
⑤広告費の先行計上
広告費と計上期間の関係を考えるうえで2つの考え方があり、決算前整理に関係してくるのは、次の(2)です。
(1)上期に広告費を集中的に投入し、年度に渡って売上増へ反映させていく(決算前は絞る)
広告のモノにもよりますが、なかなかダイレクトに売上に繋がらず、効果が出るにはタイムラグが生じます。
したがいまして、上期より広告宣伝費を投下し始め、年度の半ばに売上のボリュームを確保します。
年度の利益状況を見ながら、下期、期末前は広告出稿を絞ることで利益を確保します。TV、新聞等のマス広告を打つブランドイメージで売る業種向けです。
(2)期末前に広告費を集中的に投入し、利益を圧縮、税金額を少なくする(決算前に増やす)
広告費の支出によって利益を圧縮、税金額を減らしCashの流出を抑えつつ、翌事業年度の前半に売上のボリュームを確保します。
8~9か月後にはへこんでくるので、また期末に広告費を打って調整する。利益率の高い商材を扱うIT、通販系の会社向けです。
いずれにせよ、広告費は架空経費を作りやすく、またチェックも厳しいので、実態を説明できるようにしましょう。
とはいっても、ダイレクトに売上に紐づくとは限らないので(特に同一期間という意味で)費用対効果を測定しづらいですが、利益を調整するには使いやすい費目です。
⑥取引先への早期発注
商品仕入、原材料仕入だと販売に繋がらなければ、決算整理によって在庫に振り替わるので損益上の意味はなしません。
それでも、業務委託費や、広告運用代行費等のボリュームを決算前より先行して増やしていくことで、前述の広告宣伝費の期末前計上と同等の効果があります。
同様に、架空経費かどうかのチェックが入りやすいので、実態(業務ボリューム)を期末に向けて増やしていくのが前提となります。
費用を先行して計上し、翌月、翌年度以降に役務回収のボリューム、成果を持っていくイメージです。
要するに、月次決算を毎月しっかり進めて、1~2か月前から計画的に損益管理を行う必要があるということです。
⑦売上と原価の仕訳計上
上記、棚卸資産の実地残高の計上とともに、帳簿残高との差額を仕入勘定の補助科目内にて加減算の調整を加えることで、原価(仕入原価、購入原価、製造原価)が確定します。
決算前整理時の決算修正仕訳として会計・記帳します。
対応する売上と原価を合わせて決算前整理の段階でFixさせておきます。決算日後は、最終月の売上と原価の計上額の確認のみとできれば、業務リソース管理上良好です。
できるならしたい、費用の早期化(節税施策)
考えつくことはやりつくしました。
それでもなんかないの?決まって、期末決算ギリギリの段階とか、期末日を迎えた後の決算整理を進める中で思わず利益が残りそうになってから言われることもままあり。
なかなかできることも少なくなりますね。期末後にできることの基準は厳しくなります。
もっと早く認識していれば、前もって対応策を検討していれば、あの時後で考えればいいやと思考をやめてしまわなければ、これを思うことが実に多い印象。
原則的な会計手法だけでなく例外規定というものがあり、それを知っていれば対処策を考えるのは容易でしたが…
例えば、以下のような方法もあります。
①1年分の費用前払い(短期前払費用)
例外的な手法ゆえの厳格な基準が定められていますが、遵守している限りは前もって1年分の費用(損金)計上が可能となります。要件は以下の通りです。
・支払った日から1年以内に役務の提供を受ける
・毎月継続的に役務の提供を受ける
・毎月同じ経理処理をすることが前提
・毎年継続して損金処理すること
・決算日までにCashで支払い済み
・その費用が収益の計上と対応しない
前払費用のうち、上記基準の要件を満たすものについては、その支払った金額を継続してその事業年度の損金の額に算入しているときは、支払った事業年度に全額の損金算入が認められます。
留意点として、収益と費用が対応するもの、例えば、借入金を預金、有価証券などに運用する場合のその借入金に係る支払利子(収益と対応すると考えられる)、転貸前提の家賃や地代(収益と対応すると考えられる)、税理士報酬など提供を受ける役務の量が毎月一定とは認められないもの(継続的な役務提供であるとは認められない)、リース取引(資産計上処理が義務付けられる)は、適用が不可能です。
逆にそうでなければ認められる余地はあります。自社利用予定の家賃、土地使用料、保険料、会員費、サービス利用料、サーバー・ドメイン費用、業務委託料など。
後々取り返しのつかないのは、期末日までに一括してCashを支払い終わっていないこと。
やはり、期末決算を見据えて事前準備とシミュレーションをしておくことかと思います。
②中小企業倒産防止共済への加入
経営セーフティ共済(中小企業倒産防止共済制度)は、取引先事業者が倒産した際に、中小企業が連鎖倒産や経営難に陥ることを防ぐための制度です。
無担保・無保証人で掛金の最高10倍(上限8,000万円)まで借入れができ、掛金は損金または必要経費に算入できる税制優遇も受けられます。
③小企業企業共済への加入
小規模企業の経営者や役員の方が、廃業や退職時の生活資金などのために積み立てる「小規模企業共済制度」。
掛金が全額所得控除できるなどの税制メリットに加え、事業資金の借入れもできる、おトクで安心な小規模企業の経営者のための「退職金制度」です。
④法人契約の保険への加入
前記事でざっくりですが、説明しました。
年々メリットが下がっているように感じます。
⑤福利厚生、決算賞与、退職金等
従業員のモチベーションUPで会社に還元されるのかもしれないですが、Cash Outの施策なので要注意です。
まとめ(決算前整理としてするべきこと)
年度の損益計画の早期把握、期末決算対策、業務負荷の分散
損益着地見込みの把握、期末対策、税務対策を念頭に、少しでも早い現状把握と打ち手の立案を。
期末決算と新年度の事滑り出しがどうしても業務として並行するので、前もってできることは進めておき、後は実際に期限内に行うだけの水準にしておくことが肝要です。リソースの悩みは深いのです。
Cashの流出を伴わない、翌期以降の還元が期待できる支出
結果として社内にCashを留保する、売上を増やす、利益を稼ぐことに繋がる施策は良い施策です。
成果が見えにくいですが、費用化による税金のCash Outを減らすことも立派な手段となります。手残りの額が全てです。
心と身体(と時間)に穏やかな余裕を
健全な会社経営とは、健全な肉体、健全な時間、そしてその中で様々に飛び出す実現性の高いアイデア、シナリオ、アクションから生まれます。
ぎりぎりで考えたところでいい結果にはなりませんし、余裕のあるなかで考えた打ち手は目に見えて効果が出やすく、また二の手、三の手まで踏まえて、より練り上げることもできるでしょう。
そのような経営のアスリートでありたいと思います。
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